オニグルミインクを作ったことをきっかけに「古典インク」の存在を知る。面白そう。作るの難しそうだけどチャレンジしてみる。
古典インクとは(私的理解)
以下のnoteが大変分かりやすく古典インクを説明してくださっている。

古典インクにはさまざまな定義、さまざまな品があるようだけど、私はシンプルに「タンニンと鉄を含んだ古典的な製法のインク」と理解している。タンニンに含まれる没食子酸(もっしょくしさん)という成分から没食子インク(Iron Gall Ink)という名前でも呼ばれるらしい。
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古典インクはタンニンを多く含む植物で作成する。この間作ったくるみインクも古典インクの一種らしい。以下の記事では複数の植物からインク作りを行っている。わたしは五倍子で作ってみよう。古典インクづくりのワークショップ、楽しそう。

具体的なレシピは以下のブログを参考にさせていただいた。この方、めちゃめちゃインクにお詳しい。何者なんだろう。
記事を読み漁り、おおまかに以下の手順でインクが作れることがわかった。
- 植物を煮出して染液を作る。
- 染液に鉄媒染液を加える。
- シャバシャバであれば増粘剤を加える。
- フロー改善のために界面活性剤を入れる。
- 防腐剤を入れる。
材料の選定・調達
古典インク作りには主となる植物のほか、鉄媒染液、増粘剤、界面活性剤、防腐剤が要る。
鉄媒染液
鉄媒染液として試しに手製の鉄媒染液(木酢液とスチールたわしで作成)を使ったところ、染液と鉄媒染液を混ぜた際に大量に沈殿ができてしまった。鉄とタンニンの反応以外に、木酢液に含まれる成分が反応して沈殿しているのではのこと(by弟)。記事に倣い第一硫酸鉄を使うことにした。
増粘剤
増粘剤にはグリセリンなどを使うらしい。化粧水用にグリセリンを持っているのでちょうど良い。あと冬用化粧水におすすめという1,3-プロパンジオールも買ってみようかな。
界面活性剤
界面活性剤にはSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)というものを使っておられる。
残念ながらドデシル硫酸ナトリウムのネット販売が見つからない。以前弟が界面活性剤の分厚い専門書を読んでいたのを思い出し、「インクの表面張力を下げるオススメの界面活性剤あります?」と聞いてみると、「界面活性剤にも多種多様に種類がありまして…」とアンミカみたいなことを言う。界面活性剤は泡立つ、水と油を混ぜる、表面張力を下げるなど様々な特徴があり、一朝一夕に語れるものではないらしい。企業のカタログを読んで選ぶことを勧められたが、私に特徴を理解できるほどの化学の知識がなく断念。とりあえず手作り化粧品材料として少量安価で売っていたデシルグルコシドを買う。

防腐剤
こちらも手作り化粧品用に少量で売っていたフェノキシエタノールを購入する。

なんとか材料は揃った。
配合量の目安を考える
各素材の適切な配合割合の目安を定めたい。
まず五倍子に含まれるタンニン酸と没食子酸の割合をChatGPTに聞いてみた。合っているかはわからないけれど、いったんこの値を目安とする。
試料(乾燥100g)あたりの推定成分量
| 試料 | 推定タンニン酸量 | 推定没食子酸量 |
| 五倍子 | 約60g程度 | 約1.5~7g程度 |
今回は乾燥五倍子30gを水500mlで煮出し350mlの染液を得た。五倍子染液に含まれるタンニン酸と没食子酸量はおおよそ以下と計算できる。
五倍子染液100mlあたり
タンニン酸6g
没食子酸0.5g
インクにおけるタンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄の配合については以下の記事に記載があった。

【最新化学工業大系】の中で牧博士は、
★タンニン酸【1.00】に対する硫酸第一鉄は【0.82】
★没食子酸【1.00】に対する硫酸第一鉄は【1.48】
なる比率とすべきと言及していた。
先ほどの五倍子染液100mlに対し必要な硫酸第一鉄の量は
6(g)×0.82+0.5(g)×1.48 = 5.66(g)
と計算できる。
硫酸第一鉄は水100gに25.6g(20℃)まで溶けるそうなので、水100gに対し硫酸第一鉄を25gの割合で溶解した硫酸第一鉄水溶液を用意する。
五倍子染液100gに対し加える硫酸第一鉄水溶液は
5.66(g)/25×125 = 28.3(g)
となり、出来たインクの総量は128gとなる。
また以下記事ではインクに含まれるタンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄の割合について言及している。

★米国での基準【規格統一局通通達182号及び183号】
2. 書写用インキ(Writing Ink)における含有量はタンニン酸1.17%、没食子酸0.38%、硫酸第一鉄1.5%以上であること。
上記の値を出来上がりのインクの目安とすると良さそうだ。先ほど計算したインク128gに当てはめると、
タンニン酸
6(%)/128×100 = 4.69(%)
没食子酸
0.5(%)/128×100 = 0.40(%)
硫酸第一鉄
5.66(%)/128×100 = 4.42(%)
となり基準をクリアする。硫酸第一鉄については添加量を減らしても良さそうだ。
増粘剤、界面活性剤の適切な配合割合はわからなかった。防腐剤は商品に記載されていた割合を使用する。
テストパターンの作成
前項で計算した硫酸第一鉄の配合量を参考としてChatGPTにテストパターンを作成してもらい、加筆修正したものが以下。
細か!

これを1パターンずつ配合して試してみる。
実験結果
実はインク作りをしてから9か月後に記事を書いており忘れてしまった部分も多い。記憶に残っている印象的だった実験結果を中心に書き留める。
- 硫酸第一鉄
鉄の添加量の違いにより紫色〜黒色のバリエーションが出た。しかしいずれも数日経つと重合により沈殿物ができてペン先が詰まってしまった。硫酸第一鉄はごく微量を添加することにする。 - グリセリン
少量/中量/多量の3パターンで試した。粘度が上がって描きやすくなるものの、いつまでも乾かず指でなぞるとびよーんと線が伸びてしまう。グリセリンは添加しないことにした。 - 1,3-プロパンジオール
グリセリンと異なり、書き味を改善しつつしっかり乾燥した。推奨量でうまくいった。 - デシルグルコシド
少なければ細い線、多ければじわっと太い線が書けた。界面活性剤面白い。万年筆なのかガラスペンなのか、何を使って書くかでも適した添加量が変わりそう。今回はごく少量添加することにした。
複数パターンのインクを試しているところ。

古典インクの作り方(暫定)
古典インクの作り方、ざっくり(再掲):
- 植物を煮出して染液を作る。
- 染液に鉄媒染液を加える。
- シャバシャバであれば増粘剤を加える。
- フロー改善のために界面活性剤を入れる。
- 防腐剤を入れる。
配合量(暫定):
| 【A: 試験用 五倍子5mL】 | ||||
| 成分 | mL | 滴数 | 体積比% | 重量比% |
| 硫酸第一鉄 (20%) | 0.12 | 3 | 2.22% | 0.44% |
| 1,3-プロパンジオール | 0.08 | 2 | 1.48% | – |
| デシルグルコシド (0.5%溶液) | 0.04 | 1 | 0.74% | – |
| フェノキシエタノール (1%溶液) | 0.16 | 4 | 2.96% | – |
| 合計 | 5.4 | |||
| 【B: 製作用 五倍子100mL】 | ||||
| 成分 | mL | 体積比% | 重量比% | |
| 硫酸第一鉄 (20%) | 2.4 | 2.31% | 0.46% | |
| 1,3-プロパンジオール | 1.6 | 1.54% | – | |
| デシルグルコシド (50%) | 0.008 | 0.01% | – | |
| フェノキシエタノール (原液) | 0.032 | 0.03% | – | |
| 合計 | 104 | |||
インク完成
出来上がったインクを万年筆に詰めた。色とても可愛い。

可愛いビンに詰めて可愛いラベルを付けた。こういうのが楽しいんだから。

気づき
- 硫酸第一鉄水溶液の添加は少しずつ行う。添加後数日置き、沈殿物ができた場合は濾す。
- 自作の鉄媒染液は沈殿物がたくさんできてしまったが、タンニン+鉄の化合物が除去されたためか淡い紫色のインクになった。それに比べると硫酸第一鉄は青黒っぽい色になった。鉄媒染液に何を使うかでも色の違いが出て面白い。
- オニグルミ、くぬぎでもインクを作ってみた。こちらもうまくいった。しかしよもぎで試したところ薄すぎてインクとしては使えなかった。鉄媒染で多少グレーになるくらいでは濃い色は出ないようだ。黒染めとしてよく知られる素材でインク作りをいろいろ試してみたい。タンニンを多く含む植物と他の染料のかけ合わせでカラーバリエーションを出すのも楽しいかもしれない。




